山元町で約50年続く「岩佐海苔店」。

ここで今、海苔業界に新しい風を吹かせようと活動を続ける男性がいます。

彼の名は、岩佐真吾さん。歴史ある海苔店が手掛けるブランディングストーリーを伺いました。

 

海苔を深く知ることから新たな活路を見つける

「僕は大学在学中から東京で放送作家の仕事をしているんですが、そんな中で震災があり、それまでお店を守っていた父が亡くなってしまったんです。母はなんとかこの店ののれんを守っていきたいということで、僕は東京から何か手伝いができないかと思って。海苔のことを勉強し始めたのはそこからでした」。

どんな海苔があるのかとスーパーで買って食べてみると、どれも口当たりが悪く、今まで食べていたものとは雲泥の差。さらに宮城県産の海苔はどこにも見当たらない。岩佐さんはまずその現状に驚いたといいます。

しかしここからの発想の転換や、0から1を作り出していくのは放送作家ならでは。どんな構成だとテレビ番組がおもしろくなるかを考えるのと同じように、どんなストーリーなら新しい海苔を打ち出していけるかをとことん突き詰めていきました。

勉強のために県内の海苔生産者をまわり、生産方法から収穫までも学んだ岩佐さん。海苔に対するまっすぐな姿勢と地道な一歩が、魅力的なストーリーを作り上げていったのです。

 

「岩佐海苔店という土台があったから新しいことにチャレンジできたのかも」

販路として目を向けたのは海外。岩佐さんは「海苔の市場が縮小されていく中で、プレミアムな海苔として海外に届けよう」と、ひと目で日本の会社だとわかる「by JAPAN」という販売会社を立ち上げ、海苔を広めるために邁進していきました。

パッケージはよく見る透明なビニールを使った包装ではなく、モダンでどことなく和のテイストが感じられるデザインを施したアルミ包装に。さらに商品名は、宮城の方言で“ごちそう”を表す「gozzo(ゴッゾ)」と名付けられ、どこにもない海苔が少しずつ形作られていきました。

「最初は宮城県の海苔をきちんとわかってくれるストーリーを作らなきゃなって思ったんです。もちろんやることが多くて大変でしたけど、やっぱり岩佐海苔店という土台があるからこそできたんでしょうね。わからないことを教えてくれた母の存在も大きい。それがなかったら、ここまでくるのは難しかったかもしれません」。

多くの人の力によって形になった上質な海苔。今では経済産業省から「日本が誇るべきすぐれた地方産品」として認められるほどに。発売から間もないにも関わらず、世界に通じるアイテムとなりました。

 

「誰もやっていないことで海苔の可能性を提案したい」

パリッとした口当たりと美しい緑色が特徴の板海苔や、舌の上でとろりととろけるバラ海苔などをラインナップした「gozzo」。最高等級の海苔を使用しているだけでなく焼きたてにもこだわり、見た目とともにその味わいは唯一無二のものになっています。

もはや脇役とはいえない至高のひと品です。岩佐さんも「棚の奥に追いやられる存在じゃなくて、毎日の食卓にあるような存在になってほしい」と語ります。

今後は新商品の開発も進むそうで、海苔という食材が私たちにいっそう身近な存在になりそうです。「これからは“宮城のごちそうのり=gozzo”というふうに、この海苔が紹介されるときには宮城が主語になっているほうがいいなと思っているんです。

宮城の海苔は、皇室に献上してきた歴史もありますし、世界三大漁場の三陸沖という特異な場所で作っているという誇らしい背景もある。だからこれからは、そういうストーリーも含めて、県内産の海苔本来の味を届けたいと思ってるんです。これからも新しい可能性を追求し続けたいですね」

 

<店舗情報>

住所/亘理郡山元町山寺町東13−2

電話/0223-35-6065

WEB/http://gozzoby.jp

 

<取材担当者>

ライター 及川恵子

写真 栗原大輔

編集 谷津智里