丸森町にある藍染工房「野風」と「伽藍」。この工房、実は親子で同じ工房内で屋号を変えて営んでいる。「野風」は、平成7年、八巻秀夫さんが丸森に移り住んでつくった工房だ。一方の「伽藍」は秀夫さんの長女眞由さんが、平成28年に「野風」と同じ工房内にオープンさせた。「野風」の由来は、工房のある「野」原の「風」利用(風切)して藍色を発色させることにちなんでいる。「伽藍」の由来は、修行僧が修行のために集い切磋琢磨する場を意味するサンスクリット語に由来している。眞由さんは、藍染を通じて、人が出会い、高め合う場をつくっていきたいという思いを屋号に込めた。

あまりにも身近な藍染

幼いころより藍に親しんでいたい眞由さん。藍染はとても身近で、家中が藍染であふれていた。「正直、子どものころは、父がつくる藍染の価値に気づいていなかった」と語る眞由さん。「父は見ての通りの風貌ですし。友達からは、眞由ちゃんのお父さんは変わってるねってからかわれていました(笑)」。父親の秀夫さんの外見は、確かに仙人のような少し浮世離れしている。そんなこともあって、藍染そのものの価値や、父親が描く世界観がもう一つわからなかったそうだ。しかし思春期を過ぎたある日、いつものように教室から空を眺めていたとき、父がつくる藍染の価値に気づいたそうだ。

空も、宇宙も、海もみんな藍色

眞由さんが、藍染を本職にと心に決めたのは、高校生のとき。進路に迷っていた眞由さんは、学校の教室から空ばかり眺めていた。「ある日突然、眺めていた空が、父が染める藍の色と重なったんです。空だけでなく、宇宙も、海も、みんな藍色だと(笑)」。

藍染の価値に気づく

「その時、父が表現していることの素晴らしさ、やっていることの価値に初めて気づいたんです」と少し恥ずかしそうに語ってくれた眞由さん。18歳のころ個展についていき、秀夫さんの作品や自分でつくった作品を販売していた眞由さん。秀夫さんは、「私の作品や自分のつくったものを嬉しそうに買ってくれるお客さんの笑顔をみて、この道に入ろうと決心したのではないか」と嬉しそうに語ってくれた。

天然灰汁発酵建て

娘の眞由さんも尊敬する秀夫さんが20年以上一貫して続けている藍染技法が「天然灰汁発酵建て」だ。「藍染を始めるときに、一つ枠をつくったんです。藍染にもいろんな技法がある。でもあれもこれもと手をだしてはその道を極められないと思った」と語る秀夫さん。化学薬品や合成藍を使わず、天然藍を木灰で発酵させて染める日本古来の伝統技法に一貫してこだわり、平成28年度には「宮城の名工」にも選ばれた。

染料を追加しない地獄建て

しかもこの「天然灰汁発酵建て」は、ただの「天然灰汁発酵建て」ではない。さらに「地獄建て」というちょっと怖い名前の技法で染料を管理している。工房には、染液の入った甕が4つ並んでいる。それぞれ建てた年度が異なり、染液の濃度が異なるそうだ。「生地を液につけ、染めることを繰り返すと、生地が液を吸収する。そのため、どんどん染液が薄くなっていくんです。通常だとここに染料を追加するのだけれど、うちは染料を継ぎ足さない」と話す秀夫さん。この技法を「地獄建て」というそうだ。染料を足さずに、一から藍染液を建て直す。要は地獄のように面倒な手間がかかることが名前の由来だそうだ。

飲食衣服、これ大薬

なぜ、そこまで八巻さん親子が手間のかかる「天然灰汁発酵建て」の「地獄建て」にこだわるのか。それは、古くは中国古典「書経」にも記載されている言葉からもわかる。病気にならないためには、食事も大事だけれど、食事と同じくらい体に身に着ける衣服も大事だという教えだ。衣服をまとう以前、人は土や木の実をすりつぶして、体に塗っていた。いわゆるボディペインティング。それが発展して、人は太布に薬効の期待できる成分を染み込ませ着衣するようになった。

ファッションではなく本来衣服がもつ機能を取り戻す

しかしファストファッション全盛期の現代、衣服は体を守るものではなく、よりよく見せるためのファッションアイテムとなっている。秀夫さんはそのような現代社会で、もう一度身に着けるもの、触るものに、本来もつべき体を守るという機能を持たせるために天然の藍染技法にこだわっている。

丸森に活動の主軸を

そんな今では全国的にも珍しい天然灰汁発酵建てによる藍染の素晴らしさをもっと多くの人に知ってもらうために、父と娘がタッグを組んで積極的な情報発信にも取り組んでいる。その一つが、眞由さんの「伽藍」だ。眞由さんは、武蔵野美術大学の学生さんに協力してもらって最近「伽藍」のホームページも開設した。「私と父がターゲットとしているお客さんの層は違うんです。父の「野風」はミセスを、私の「伽藍」はミスをターゲットとしている(笑)」。年に10回以上やっている個展の回数を少し減らし、丸森で藍染体験や販売を増やしていきたいと考えている。藍染体験をして宿泊もできる場所をつくる計画もある。今後ますます二人の工房から目が離せない。

天然灰汁発酵建て 絞り染め

① 絞り作業。作業台でお好みの柄をイメージして布を絞る。単純に布を結んだり、タコ糸や割り箸などをつかって絞ったり。絞った部分が染まりにくくなります。

② 水に浸す。染めむらを防ぐために。染めるもの全体を見ずにしっかりとしたし、軽く絞ります。

③ 染液で染める。染液の入った甕にTシャツやハンカチなど染めたい生地を入れ、生地に染液を染み込ませる。染めたい濃さに応じて、使う甕や、回数を増減させる。もっとも新しい染液(濃い濃度)の甕ともっとも古い染液(薄い濃度)の甕を比べると、新しいものなら1回で済むが、古いものいのだと5回くらい染めなければいけない。しかし5回染色作業を繰り返した方が、耐久性は増す。

④ すすぐ。藍の色がでなくなるまですすぎ洗いをする。

⑤ 絞りをとり、干す。模様付した生地を解きほぐし広げて、ハンガーなどに掛け干す。空気に触れることで、酸化し発色する。

関連情報

藍染工房「野風」と「伽藍」
https://www.garan.blue/
http://marumori.jp/spot/aizome-kobo-yafu/
住所 宮城県伊具郡丸森町字上滝東26-1
電話番号 0224-72-2647
アクセス
阿武隈急行・丸森駅より車で20分
仙台市内より車で1時間30分
営業時間 体験時間:応相談
定休日 不定休
初心者の方向け「basicコース」
 ハンカチ 2500円
 バンダナ 3500円
 てぬぐい 4500円

中級者コース
 Tシャツ 5,000円

注意 事前に要予約