
「東北のいちご産地といえば山元町」と言われるほど、いちご作りが盛んな山元町。
ここに、日々新しい発想を求め、“いちご作りのその先”に思いを馳せるひとりのいちご農家がいます。
それが、燦燦園の深沼陽一さんです。
きっかけはどこにあるか分からない
深沼陽一さんは、カラッと明るく元気な人。何か面白いことはできないかと、常にアンテナを張っています。気になることがあればどこへでも足を運ぶため、農業関係者以外の人と出会うことも多く、それが新企画につながることも。
例えば、ベンチャー企業といちごの成分を使用した石鹸を開発したり、水に注目して活水器メーカーを訪ね、いちごの鮮度維持に活用したりしています。
また、お客さんと直接顔を合わせる催事は、どんな商品が求められているかを直に感じられる場所。社員一丸となって力を入れ、関東へも足を運びます。「 “いちご農家らしい催事向け商品”ができないか」。そう考えていたとき、たまたま事務所で目に留まったのが冷凍いちごとかき氷機、それに特製いちごジャムとミルクでした。
「これだ!」燦燦園の現在の看板商品、「いち氷」誕生の瞬間です。早速次の日、スライスした冷凍の超甘熟いちごをカップに山盛りにし、その場で特製いちごジャムとミルクをかけて提供すると、大きな反響を呼びました。
大好きだった「父のいちご」をもっと食べてもらうために
24時間いちごのことを考えているような深沼さんですが、もともとは家業を継ぐ気は無かったといいます。レールを敷かれているような気がして嫌だったのだとか。けれどお父さんの作るいちごは昔から大好きで、「なんで美味しいのに他のいちごと同じ値段なの?」と幼心に疑問を抱いていたそうです。
両親の仕事ぶりに対して「すげぇなぁ」という思いが湧いてきたのは二十歳の頃。「美味しいものは売れるに違いないのだから、自分で直接売ってみたい。大好きないちごを、食べてくれる人にもっと届けたい」。
そんな気持ちが、深沼さんの背中を押しました。「父の代の人たちの頑張りが山元のいちごの土台を作ってくれた。新しいことに挑戦しながらも、その伝統をしっかりと受け継いでいこう」。深沼さんはそう覚悟を決めました。
最大のこだわりは「新鮮な完熟いちごを届けること」。通常、全体が赤くなる前の状態で市場に出荷されるいちごですが、どこの誰に届くか分からないいちごを作るのではなく、自分たちのいちごを欲しいと言ってくれる人に直接買ってもらうため、デパートやケーキ店と顔の見える関係を築き、新鮮で赤く熟した甘熟いちごを納品しています。
仲間とともに「いちごの未来」をつくる
「甘熟いちごが食べたいという声にもっと応えられるように、賛同してくれる仲間を増やしていきたい」と言う深沼さん。現在、さらなる「いちごの常識の転換」に仲間と挑戦しています。
私たちがいつも食べているいちごは一般的に「冬いちご」という品種。通常、夏場は流通しないのですが、これからは美味しい冬いちごを一年中食べてもらおうと、メーカーと協力して新技術を導入したビニールハウスを開発しました。
ハウス内の環境をコントロールし、外気温が30℃を超える夏場でもハウス内を20℃に保つことで、栽培はもちろん、いちご狩りも通年でできるようにするそうです。ハウスの隣にはいちごに特化したスイーツショップを作る構想も。そんな場所が今秋、仙台にオープン予定です!
次々と新たな挑戦を繰り出す深沼さん。
「都会の繁華街や空港など、意外性のある場所にいちごを持ち込んで空間ジャックをしてみたい!」なんていう構想も聞かせてくれました。心底楽しそうにいちごのことを語り続ける深沼さんの周りには、誰もがわくわくする未来が広がっていました。
<店舗情報>
住所/亘理郡山元町山寺字稲生18番地
電話/0223-37-0659
営業時間/9:00〜18:00
定休日/不定休・年末年始
WEB/http://sunsunen.com/
<取材担当者>
ライター 青木美樹
写真 島村咲子
編集 菊地るみ