
山元町からの帰路、ミガキハウスの立上げプロジェクトリーダーの豊島さん(以下とよし)の助手席にて、1週間ぶりにみる太陽はとても眩しく心地よい。これ以上ないくらい清々しい気分だ。
夏休みの素敵な想い出にと、ミガキハウスの運営を「ちょっと」手伝ってほしいという話に乗って、6泊7日で山元町を訪問。ミガキハウスは自然と田舎を満喫するには最高のゲストハウスであることを知っていたので、当然それを期待しての参加だった。しかし終わってみれば、毎日雨。しかも手伝うのは「ちょっと」どころか、ロクにやったこともない炊事洗濯をフル稼働で実施。期待していた田舎サイクリングや海は全く楽しめず、缶詰状態で家事をこなした6泊7日だった。
しかし帰路になって初めて太陽が出てくるのは、悔しい筈なのに、こんなに清々しいのは、ゲストハウスを運営しながら、ここへ訪れる多様な人達をもてなし、交流していくという体験が、憂さを晴らしてくれたからに違いない。
サラリーマンに失望していた自分
普通のサラリーマンである自分にかすかな不満を持ちながら、それなりの目標と情熱は持っていた。半年前までは路は険しいけれど、会社も自分を支援してくれていた。それなのに、ひょんなことから支援は止まり、悪い方向にことが運んでいく。なんとか事業を立ち上げようともがいたけど、パワーゲームに屈してしまった。出世なんて興味ないと自分に言い聞かせてきたけど、やりたいことができなくなるのは、本当に我慢できない。サラリーマンたるもの、仕事の内容は会社が決めるものなのか?
ミガキハウスを訪れる前の自分は、自信喪失気味で、発言することに臆病であり、働くことの楽しさを忘れていた。
ミガキハウス運用体験でホンモノの家事を知る
ミガキハウスの運用とは、要は泊まりに来るゲストをおもてなすための準備、すなわち家事なのだけど、自分がこれまで行ってきた家事は、「料理はするけど、片付けはしない」「高級食材を使って、時間をかけて調理する」「洗濯は全自動、アイロンが必要な場合はクリーニングへ」。男の家事なんてそんなものだろうと思っていた。でもそんな家事では、相手が家族であっても実は通用しておらず、実は自己満足に終わっていることが多いということは、今回の体験を通して初めて気がついたことである。。「料理は作りながら平行して洗いモノして」、「手際よくやって」とか、「キッチン汚さないで」とかよく奥さんに言われません?
でも嫁に言われてもなんとなく、普段は受け入れられず聞き流してしまう自分がいる。これが目の前にお客様がいて、お客様のためにと考えると、普段仕事で営業している性か、スーっと頭に入ってくる。(できるようになったかは、別として )そして同時に、日常の自分に照らし合わせて嫁の話を聞き流したことに対する反省とか、面倒くさいことをプロフェッショナルにやってくれている嫁への感謝とか、そういう気持ちが生まれて来る。
加えて、ミガキハウスを訪れてくるお客様も、働き手もおもしろい人達ばかりなのです。
ミガキハウスで交流したプロフェッショナルな人達
ミガキハウスはNPO法人GRAが古民家を改良して作った民泊であるが故、GRAに絡むグロービス経営大学院生・卒業生が多く泊まりに来る。グロービス経営大学院は社会人が所謂MBA(経営学修士)を取得する学校。そのため比較的、意識が高い人が集まる環境にあるが、今回は特に各分野でのプロフェッショナルな人達が泊まりに来た。
㈱GRA代表の大輝ちゃん、SenSprout代表の理沙ちゃん、Stanford大学博士課程中のAaron、大工の中村さんなど、いろんな国から多様な生き方をする人達が遊びに来てくれたが、家事を通して交流しながら自分の気持ちに変化を与えてくれた人達を取り上げたい。
噂の執筆者藤野貴教は渋谷のチーマーか?いや、プロの料理人か。
「2020年人工知能時代僕たちの幸せな働き方」はAI時代の僕らの生き方を示唆してくれる素晴らしい書籍だが、その執筆者藤野貴教さんが泊まりに来るという事前情報があり、楽しみにしていた。 ところが、山下駅で彼をピックアップした時、こんがり焼けた肌にオシャレすぎる格好でどこか危険な雰囲気・・1990年代の渋谷のチーマー的な?(あくまでもイメージ、ごめんなさいふじのん。。)
うわーこの人、山元町には似合わない!ふじのんって呼んでくれってことだけど、呼べない!正直、絶対シティー派で、普通に街であったら仲良くなれないタイプだなーと思った(笑)でも、そんな人がミガキハウスに来て早々、一緒に同じキッチンで宿泊者の麻婆茄子&豆腐を作ってくれた!
これが絶品でプロの仕上がりで感動だったのだが、こういう凄い人が、ゲストで来ているのにキッチンに入ってしまうってことに感動。一気に、親近感が湧く。この日は生ビールを注ぐくらいしか、ホストっぽいことをしてなくて、後はゲスト達に紛れて、くだらない話で盛り上がった。
とことん尖っているふじのん
ふじのんは、アクセンチュアに入り、人材系の会社でバリバリ働くものの、東京の暮らしに疲れを感じ、東京を卒業。愛知県で株式会社働きごこち研究所を起業したとのこと。(http://www.hatarakigokochi.jp/)グロービス経営大学院の卒業生でしっかり成績優秀者として卒業時に表彰されたという。ふじのん曰く、サラリーマンをやっても、すぐに飽きちゃうらしく、最終的には自分で起業するという選択をとったらしい。
たぶん頭が良すぎて、尖り過ぎていて、サラリーマンでは、物足りないのだろうと思う。そして発想も十分に尖っているから、他社とは差別化された事業を10年も継続している。
この人に比べて、自分はずっと起業に憧れつつも、そこまでリスクをとれず今に至っている。やりたい方向に転職はしてきたけど、ジャンプができないていない。そもそも、何に向かってジャンプするか?中途半端に尖ってきた自分と比べて、尖り切っているふじのんは凄い。
アイロンから経営までなんでもこなす行政書士ひぐちゃん
パッと見、普通のおじさんのひぐちゃんは、行政書士であり、自ら事務所を開いている。(参照:https://ameblo.jp/higchi-office/)行政書士って、 お役所相手の事務屋さんって堅いイメージだったのだが、このおじさんはその枠にはまらない。お客さんから、「経営者目線でのアドバイスありがとうございます!」と良く感謝されるらしい。NPO法人GRAの登記手続きを手伝って頂いてからミガキハウスに来てくれるようになったようで、私自身は今回始めてお会いした。
グロービス経営大学院卒業生は教科書通りで素晴らしいマーケティングプランを提示するが、どうやってお金を落とすの?とマネタイズの部分が欠けているらしい。卒業生である自分にはグサっとささり、全員ではないとはいえ、自分も含めてそういうきらいはあると納得してしまった。というような話を、後に宿泊する大学生の大量のシーツのアイロンをあてながら話した。
そうこの人、アイロンのプロフェッショナルで私にとってアイロンがけの師匠なのです。たどたどしくアイロンを当てる私を見かねて「まっちゃん、それじゃあ体重が乗ってないよ、一日かかるよ!」「折り目正しくって言葉知ってる?もともとは着物の折り目のことを指すのだけど、折り目をきちんと仕上げることで、非常に整って見えるんだよ」と私を叱咤激励し、見本を見せてくれた。
アイロントークで自己肯定感
アイロントークは盛り上がり、最後はドローンと週末の休みを活用したビジネスプランにまで発展。詳細は秘密ですが、自分がグロービスで学んできたマーケティング視点と、実務に長けたひぐちゃんの視点がミックスして大いに盛り上がる。 自由に出していった私のアイディアを上手く拾ってつなげてくれたひぐちゃんにより、失っていた自己肯定を取り戻すきっかけになった。
究極のワークライフタイムバランスを実践するスーパーマンとよし
ミガキハウスを立ち上げた豊島さんは、「とよし」とみんなから呼ばれている。二人の娘の完璧なパパをしながら外資系製薬会社でサラリーマンとして収入を得て、空いた時間をNPOGRAの理事、グロービス経営大学院の公認クラブ「地域活性化クラブ」の代表に投入する。やりたいことを本気で、そして半端ない責任感をもってやり通すスーパーマン。
ミガキハウスもこの人が中心となって、古民家を民泊へとリノベしたという。ファンドレイズで資金がなかなか集まらなかった時、グロービス経営大学院に毎日アフター5通いつめ、学生達にアピールしたという伝説は、この人のやり抜く力が垣間見える。これだけ仕事以外にこなしていれば、家庭は適当だろうと思いきや、食事や日曜大工的な家事も完璧にこなし、しっかりパパとして娘達を旅行に連れてったり、家庭を大切にしている。
とよしに怒られ、気づき、学習していく体験はピカピカの社会人一年生
この人のリーダーシップのもと、家事をしたのだけど、ほんと厳しかった!コーヒーの淹れ方、ホットサンドの作り方、かぼちゃの炊き方、アイロンの当て方、全部ダメ出しされたような・・・。あまりに厳しかったので、最初の2泊経験して、3泊目でもう帰ろうかと思った。これでは、嫁に怒られながら家事するのと変わらないじゃないかと。
でも、かなり前向きになったのは4泊目、福岡大学生が泊りに来た日。これだけ多くの人数の顧客にサービスを提供するにはかなりの効率的なオペレーションが必要になることを肌で感じた。そして、プロの料理人でもないのに1人で大人数のための手巻き寿司をささっと作り、学生に感謝されているとよしを見て、ダメだしの理由に納得した。一度納得すれば、一気に学ぶモードに切り替わった。最初は全然できない状況から、できる先輩をロールモデルとして、一緒に働く仲間や、お客様からの「ありがとう」に感謝しながら、働くことの楽しさを学んでいく。まるで社会人1年目かのように。
かっこいい起業家達
グロービス経営大学院に通っていると、起業していると優秀みたいな空気があり、なんとなく起業家かそうでないでないかが、人を判断する一つの基準になる。実際、ミガキハウスに泊まりに来た、ふじのんを初め、大輝ちゃん(㈱GRA社長)、理沙ちゃん(㈱Sen Sprout社長)、ひぐちゃんは、経営者で起業していてかっこいい。サラリーマンに失望した自分には、彼らの生き方がいつも以上にかっこ良く映った。でもかっこいいのは彼らが起業しているからではなくて、その裏にある思いが内面から滲み出ているからである。
とよし流も超かっこいい
他方、とよしはこのようなかっこいい起業家達とは違う生き方をし、思いを形にしている。とよしはサラリーマンがやりたいことを実現するための収益源としては最適であると考え、見事に家庭と仕事とNPOとで自らが考えるバランスを実現している。 7日間も一緒に行動したことでとよしの生き方、なぜそれができるのか?を肌で知ることができた。
とよし曰く、「ふじのんや岩佐さんはリスクをとって起業していて凄いと思う。でも自分はそこまでリスクをとって起業しようとは思えない。自分がリスクをとるのは良いのだけど、家族にまでそのリスクを取らせるほどの勇気がないんだ。普通にサラリーマンして収入を得て、空いた時間をやりたいことに投資する、それが自分には最適なんだ。」
この考え方を聞いてハッとした。自分のやりたいことが何で、そのための最適な手段が何かを考え抜くことが大切であると再認識した。起業は一つの手段であり、自分に最適な働き方、生き方を見つけているとよし流も超かっこいい。 今後はこの人を尊敬をこめて、とよし先生と呼ぼう。
意識高き福岡大学学生
福岡大学で東北復興夏期セミナーという4泊5日のプログラムがあって、それに参加していた1年生~4年生までの大勢の学生がミガキハウスに泊まりに来た。数年前から大学のプログラムとして継続され、毎年定員枠いっぱいで人が集まるようだ。彼らはゲストでありながら、非常に真面目な学生ばかりで、食事や掃除のオペレーションに協力してくれた。夕飯後にミガキハウスのダイニングバーになんとなく集まる流れになり、社会人と学生の交流する場が自然にできていた。
学生達のリーダー役が、その場で、どういう理由で今回のプログラムに参加したか問うと、復興支援の意識が薄れつつある現状に疑問を抱いている学生、熊本地震の被災者であり、その時助けてもらったということへの恩返しをしたい学生、自分を高めたい、変えたいという理由訪問している学生など、参加理由は多岐に及んでいた。とにかく優秀な意識をもった学生ばかりで、学生の時、テニスしかしていなかった自分とは大きく違うなとただただ関心した。
そんな学生にも、我々社会人の経験話は新鮮なようで、働くことへのやりがいや、職を選んだ理由、どういう価値観で生きてきたか、転職した理由など、興味深く聞いていた。学生達にとってみれば人生の先輩達のありがたいお話のようなのだが、質問されている社会人に後から聞いてみると、むしろ自分の経験を語るだけで感謝され、社会人が元気をもらっている。お互いにハッピーな素晴らしい空間がそこにあった。
自分としては、このような空間を創出できたことが今回のボランティアでの最大の貢献であり、民泊運営側として始めて顧客をもてなした瞬間だったと思う。自分が最も働くことへのやりがいを感じていた時期を思い出すきっかけになった。
多様な生き方に出会い、家事を通して交流する
ミガキハウスに来る前のサラリーマンに対するネガティブな感情はどこかへ吹っ飛んでいた。明確な理由はわからないが、少々偏った見方しかできなくなっていた自分に、多様な生き方をするそれぞれの分野のプロフェッショナルが多様な視点を与えてくれた。民泊運用という社会人1年目の体験が、自分を初心に戻らせ、モノゴトを吸収しやすくしてくれたに違いない。
自宅でホットサンド、学び還元を試みるが。。。
ミガキハウスでの学びを、嫁にも還元しようと、帰宅路にホットサンドメーカーと卵焼き用フライパンを購入。ホットサンドはミガキハウスのトレードマークみたいになっていて、これを使いこなせるようにならないとキッチンに入れてもらえない。卵焼きはとよし先生が卵焼きを器用に焼いているのを見て真似しようと思った。
帰宅後の翌朝、ハム・トマト・チーズとともにホットサンドに挟んでみた。学んだ通り、料理しながら平行して片付けをやっていく。嫁に喜んでもらえるかなと思ったけど、6泊7日も家を空けてしまった穴は埋められなかった。ちょっとミガキハウスに熱狂し過ぎたかな(笑) 関係改善の努力はいまだに続く・・・
まっちゃん 38歳
化学メーカに勤務
グロービス経営大学院卒業生
関連情報
ミガキハウス
http://migaki-house.com/